『亜峠呼世晴短編集』レビュー|原点にして神髄!「過狩り狩り」から読み解く鬼才・吾峠呼世晴の世界

2025/04/16

『亜峠呼世晴短編集』レビュー|原点にして神髄!「過狩り狩り」から読み解く鬼才・吾峠呼世晴の世界

吾峠呼世晴の原点を凝縮した一冊とは?

『鬼滅の刃』で一大ブームを巻き起こした漫画家・吾峠呼世晴(あとうげ こよはる)先生。そのデビュー以前の読み切り作品を収録したのが、2019年に刊行された『亜峠呼世晴短編集』です。

この一冊には、後に『鬼滅の刃』へと進化する原点とも言える読み切り『過狩り狩り』をはじめ、現代を舞台にしたダークな物語が詰まっています。作者の創作の原風景を味わえる貴重な短編集であり、ファンならずともミステリアスな物語やダークファンタジーが好きな方にはたまらない内容となっています。

本記事では、収録作品の魅力を深掘りしながらご紹介します。


『亜峠呼世晴短編集』収録作一覧

  1. 過狩り狩り(2013年、第70回JUMPトレジャー新人漫画賞佳作受賞作)

  2. 文殊史郎兄弟(2014年)

  3. 肋骨さん(2015年)

  4. 蠅庭のジグザグ(2015年)


『過狩り狩り』とは?『鬼滅の刃』の原型にして濃厚な短編バトル

『過狩り狩り』は、吾峠先生が新人賞を受賞した読み切りであり、のちに『鬼滅の刃』へと繋がっていく重要な作品です。舞台は大正時代と思しき世界。鬼を狩る盲目かつ隻腕の剣士が主人公として登場します。

この作品最大の見どころは、すでにこの時点で登場している珠世と愈史郎と思われるキャラクターの存在です。彼らは後の『鬼滅の刃』でも重要人物として登場し、ここでもすでに同様の能力(血鬼術)を使用している点から、吾峠先生がこの段階でかなり明確なキャラクター像を構築していたことが伺えます。

鬼たちと主人公が、それぞれの目的で無差別殺人を行う異質な存在に挑むという構成は、わずか一話ながら手に汗握る展開と、キャラクターの“宿命”を匂わせる設定が詰まっています。

タイトル「過狩り狩り」に込められた意味

作中では人ならざる存在を“過狩り”と呼び、それを狩る者を“過狩り狩り”と表現しています。つまり、鬼を狩る鬼狩り――『鬼滅の刃』へと繋がる世界観の始まりが、この短編に凝縮されているのです。


他収録作も濃密な世界観とダークな魅力

文殊史郎兄弟

ある少女の父の仇討ちを請け負う兄弟のバトル譚。コミカルさと陰のある設定が融合しており、二人が持つ特殊能力を駆使した戦いがテンポよく描かれています。兄弟の過去には暗い背景がありそうですが、本作ではあくまで表面的に爽快なバトルが展開されます。

肋骨さん

視覚に障害を抱える浄化師の青年が、感情を“文字”として視認する能力を使い、邪気と対峙するストーリー。ホラー的な演出からバトルに発展する展開は、『過狩り狩り』に通じるものがあり、シリアスさと静かな迫力を感じさせます。

蠅庭のジグザグ

自殺の多発する町を舞台にした呪術バトル。呪殺屋と解呪屋という設定がユニークで、キャラクターもどこかコミカルさを含んでいます。戦闘自体は一方的で、ある意味ではシュールな展開が楽しめます。


吾峠呼世晴の“原点”を読む意味

「亜峠呼世晴短編集」イメージ画像。


『亜峠呼世晴短編集』は、ただのファンサービスではなく、吾峠呼世晴という作家の“根”を知る上で非常に重要な資料です。
特に「過狩り狩り」は、『鬼滅の刃』の世界観をかじるだけでなく、珠世や愈史郎の初期案、鬼舞辻無惨のようなキャラ造形、戦闘の描写スタイルなど、多くの“原点”が見え隠れする一作です。

また、他の作品にも共通する「負のエネルギー」「人間の陰の部分」「見えない力との対峙」といったモチーフは、吾峠作品に一貫して流れるテーマであり、それぞれの短編が独自のタッチで描いています。


まとめ|『過狩り狩り』は“読むべき一話”、短編集は“見るべき原点”

『亜峠呼世晴短編集』は、吾峠作品の中でも“語られざる出発点”を記録した貴重な一冊です。
なかでも『過狩り狩り』は、『鬼滅の刃』ファン必読の一話であり、あの物語がどのように始まったのかを知るにはこれ以上ない作品です。

過狩り狩りというキーワードが指し示すのは、人間ではない“何か”との戦い、そしてそこに命を懸ける者たちの物語。短編集という形ながら、各作品は重みのあるテーマと独自の世界観を備えており、読後には深い余韻が残ります。

『鬼滅の刃』が好きな方はもちろん、ダークファンタジーやオカルティックな物語に惹かれる読者にも、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。

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